Fumihito Ohashi Architecture Studio

-音連庵  -かけがわ茶エンナーレ- KAKEGAWA, SHIZUOKA, JAPAN2017.10
風が吹けば音がなるが、そのような風などの自然現象を
古来の人たちは神の来訪を告げるものと感じた。
その時、音を連れて、神が来訪するので、音連れ(おとづれ)と言った。
それが「訪れ」の語源である。
その場にしか立ち現れない、光があり影がある。風が吹き、ざわめき、運
ばれてくる匂いがする。その瞬間の場の空気をただ感じて、自分と向かい
合う場。それは、八百万の神と向き合う場所として、森に囲われたため池の前に佇んでいる.
ある場所では、影向を感じる場として、ある場所では、風の音を聴く場所
として、この場はある。
建築のようでも、家具のようでも、浮き橋のようでも、ひとつの結界のよ
うでもあり、そのどれでもないような場。ただただそこに身を委ねると、
マザーネイチャーが囁きかけてくれる。
四季を移ろいを感じること、それは、視角だけでなく、全ての感覚を研ぎ
すますことから始まるのではないか.



高天神城址というかつて山城のあった場所、城址から下をみると、ため池
がある.そのため池は、掛川が水の少ない土地であり、ため池を各地につ
くり、農業用水として生活と共に親しんできた場所である.現在では、利
用価値がなくなり、本来の機能はほとんどしておらず、遺跡のような佇ま
いで人々の生活からも切り離された存在として残っている。特にこの高天
神下池は高天神城の森に囲われていて、このため池が行き止まりでもある
ため、人工的につくられた堤防の先は時々刻々と自然の一部へと戻ってい
こうとしている場所のようである.

このような状況の高天神下池を前に、この場所で佇み、このまわりの自然
をただ感じられるような場所としての何かを作品としてつくってほしいと
いうのがことの始まりだった.

この下池を目の前に佇むと、ただ目の前のため池に映る池を囲う森の雰囲
気が美しいというだけではなく、城址としての戦を経験しての歴史の重み
や、親しまれたため池が役割を失った所在のなさなどの空気の重さのよう
なものが混在していた.そして、そこの場には、木々のざわめき、さまざ
まな鳥や動物の声や気配、水面をただよう魚や虫達の挙動が、静かに感じ
られる場所なのである。私は、この場所を、視覚的な何かを施すために作
品を制作するのではなく、この場所にいるだけで、この地の地霊に向き合
うための境界のようなものをつくるべきなのではと感じた.

遺跡のような境界のような、それでいて人々を守ってくれるような存在.
この作品を、『音連庵』と名付けた.

音連庵への道のりは、高天神城址の駐車場から脇道に逸れていき、数分砂
利の路を歩く.その視界は、薮のトンネルを抜け、森の暗さが増していく.
その先に、明るい抜けた空間が広がる.十数メートルほど立ち上がった土
手の上には、木製のフレームが廃墟のように、鳥居のように乱立している.
まるで何かの物語の一部かのようなこの移動の体験は、土手の階段を一歩
ずつのぼり、音連庵の中に一歩脚を踏み入れると、さらに世界はひろがる
のだ.フレームによって身体的な空間のスケールに守られているにもかか
わらず、世界はひろがっていく.この体験は、高天神下池だけでなく、日
本各地で体験できる世界であることを確信した.


PHOTO ©YUNAYAGI
かけがわ茶エンナーレ 大東エリア

場  所|高天神城趾脇 高天神下池
     掛川市下土方 高天神城趾追手門駐車場より入る
開催期間|2017年10月21日 - 11月19日
    (会期終了後2018年2月25日まで展示)

作品概要
音連庵 
素  材|スギ材
施  工|橋本建築
協  力|川井建設㈱